数字で見る妊娠と不妊予防
妊娠にまつわる数字は検索すればすぐ出てきます。しかし「その数字が何を言っていないか」はほとんど書かれていません。ここでは生殖医療専門医が、出典とともに数字を並べ、それぞれの限界を併記します。
卵子の寿命は排卵から約24時間。
✕ この数字が言わないこと:「排卵日に合わせる」では遅い場合がある。待っているのは精子側。
出典: 生理学 / Physiology
精子は卵管内で約1週間生存しうる。
✕ この数字が言わないこと:生存=受精能の維持ではない。最も妊娠しやすいのは排卵直前。
出典: 生理学 / Physiology
妊娠可能な期間は排卵5日前〜排卵後1日、そのうち最も高いのが排卵2日前〜当日。
✕ この数字が言わないこと:排卵日は前後にずれる。「安全日」は正確に推定できない。
出典: 生理学 / Physiology
排卵の約2週間後に月経が来る=次の月経予定日の2週間前が排卵日。
✕ この数字が言わないこと:月経周期が不安定な人はこの逆算が成立しない。
出典: 生理学 / Physiology
体温が上がったこと=排卵が起きたことの事後確認になる。
✕ この数字が言わないこと:上昇を確認した時点で妊娠しやすい時期は過ぎている=予測には使えない。
出典: 生理学 / Physiology
3→6ヶ月で30ポイント増えるのに、6→12ヶ月では10ポイントしか増えない。
✕ この数字が言わないこと:「待てばいつか」ではない。6ヶ月が方針を見直す分岐点。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 17(タイミングを特に合わせない前提の保守的な提示)
ドイツの前向き研究346名。排卵日を知って臨めばこの水準になる。
✕ この数字が言わないこと:「なんとなくの性交」ではこの数字は出ない。前提条件が結果を大きく変える。
出典: Gnoth C, et al. Hum Reprod. 2003;18(9):1959-66.
6周期は「様子を見る期間」の上限として合理的な根拠がある。
✕ この数字が言わないこと:半数は要因を持たない=6周期で妊娠しなくても異常とは限らない。
出典: Gnoth C, et al. Hum Reprod. 2003;18(9):1959-66.
欧州7施設782カップル。性交のタイミングと頻度を補正した解析。
✕ この数字が言わないこと:完全に妊娠できない人は年齢によらず約1%。年齢で増えるのは「妊娠しにくさ」であって「妊娠できなさ」ではない。
出典: Dunson DB, et al. Obstet Gynecol. 2004;103(1):51-6.
流産と加齢による不妊を織り込んだモデル推計。4年以内なら91% / 84% / 64%。
✕ この数字が言わないこと:開始を30→35歳に遅らせて失う出産を体外受精が取り戻せるのは約半分、35→40歳では30%未満。「困ったら体外受精」では取り返せない。
出典: Leridon H. Hum Reprod. 2004;19(7):1548-53.
20代は人生で最も妊娠率が高い時期。望まない妊娠のリスクも最も高い。
✕ この数字が言わないこと:同じ数字が「妊娠したい人には朗報、望まない人には警告」になる。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 11
6ヶ月続けても約20%。
✕ この数字が言わないこと:「自然に任せる」を続けても回復しない。時間だけが減る。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 1
卵子の残り数の指標。閉経(52歳前後)で0に近づく。
✕ この数字が言わないこと:卵子の「質」は反映しない。同年齢でも個人差が極めて大きく、年齢とは相関しない。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 4
AMH 1.0未満を「低め」、1.0〜2.0を「やや低め」として扱う。ESHRE ボローニャ基準の卵巣予備能低下は1.1 ng/mL未満。
✕ この数字が言わないこと:低い=妊娠できないではない。卵子の質は年齢相応に保たれる。
出典: ESHRE Bologna criteria (2011) ほか
日本産科婦人科学会PCOS診断基準(2024)。40歳以上は基準に記載がないため高値判定を行わない。
✕ この数字が言わないこと:AMHが高いだけではPCOSと診断できない。月経異常・エコー所見・ホルモン値と合わせて判断する。
出典: 日本産科婦人科学会 PCOS診断基準 2024 / JSOG PCOS criteria 2024
将来授かりたい人数によっては治療を急ぐ判断材料になる。
✕ この数字が言わないこと:低い=妊娠できないではない。今月の妊娠率を示す値でもない。
出典: 書籍本文 / Book, 付録3
若いうちに卵子が尽きる状態。平均初婚年齢の直後に該当しうる。
✕ この数字が言わないこと:限りなく0に近づくまで自覚症状がない。月経周期の変化が最初のサイン。
出典: Luborsky JL, et al. Hum Reprod. 2003;18(1):199-206.
順調に妊娠する人は28〜32日が多い印象。
✕ この数字が言わないこと:25〜26日と短いのは卵子の残り数が少ない可能性、35〜40日は排卵日の変動が大きい可能性。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 6
3〜5周期の累積で約20%。
✕ この数字が言わないこと:1回あたりの失敗率は90%以上。1回に期待しすぎない設計が要る。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 19
3〜5周期の累積で約30%。
✕ この数字が言わないこと:精子を届けているだけで、受精以降の過程は自然妊娠と同じ。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 19
最も妊娠率が高い治療。1回の採卵で複数の卵子を扱うため効率が良い。
✕ この数字が言わないこと:卵子の数を増やす治療でも、質を改善する治療でもない。40歳以上では20%未満。
出典: 日本産科婦人科学会ARTデータ / JSOG ART registry
排卵日付近で1日あたり約2mm大きくなるため、エコーで排卵日を正確に予測できる。
✕ この数字が言わないこと:月経不順やストレスで排卵が遅れる場合も、この方法なら追える。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 19
感染者との性行為で30〜50%が感染する。
✕ この数字が言わないこと:無症状のことが多く、放置すると卵管が閉塞し不妊の原因になる。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 9
感染しても2年以内に90%は自然に治癒する。
✕ この数字が言わないこと:一部が持続感染し、5〜10年で子宮頸がんに進展する。感染は自覚できない。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 10
25〜40歳女性のがん死亡原因の第2位。
✕ この数字が言わないこと:1〜2年ごとの検診とHPVワクチンでほぼ予防できる=防げている死ではない。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 10
女性が主体的に選べる方法。月4000円程度。
✕ この数字が言わないこと:性感染症は防げない。コンドームとの併用が必要。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 11
一度挿入すると約5年有効。抜去後はすぐに妊娠可能な状態に戻る。
✕ この数字が言わないこと:産婦人科での処置が必要。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 11
性交後72時間以内の内服が必要。1回2〜3万円。
✕ この数字が言わないこと:常用する方法ではない。事前に低用量ピルを始めておく方が確実で安価。
出典: 書籍本文 / Book, Fact 11
正常範囲にコントロールすることで流産・早産のリスクを下げられる。
✕ この数字が言わないこと:甲状腺だけで月経不順を説明することはできない。
出典: 書籍本文 / Book, 付録3
欠乏時は1日25〜50μg(1000〜2000単位)で補充。月経周期と着床環境の改善が報告されている。
✕ この数字が言わないこと:脂溶性で体内に蓄積するため過剰摂取に注意。補充後1〜2ヶ月で再検査。
出典: 書籍本文 / Book, 付録3
32倍未満ならワクチン接種が推奨される。
✕ この数字が言わないこと:生ワクチンのため接種後2ヶ月の避妊が必要。パートナーの抗体も確認する。
出典: 書籍本文 / Book, 付録3
以下はガイドラインではなく、著者(生殖医療専門医)が日々の診療で用いている判断の目安です。一般的な基準とは意図的に異なる部分があるため、根拠もあわせて示します。
30歳未満なら6ヶ月、30歳以上なら3〜6ヶ月で妊娠しなければ検査・治療を始めた方がよい
なぜそうするか:不妊症の一般的な定義(1年)より意図的に早い。6→12ヶ月で累積妊娠率が10ポイントしか伸びない一方、その間も卵子の質と数は落ち続けるため。
月経周期が25〜26日と短くなってきた人はAMH 0.4〜0.5前後、40〜60日または3ヶ月以上の無月経ではAMH 0.1未満のことが多い
なぜそうするか:卵子の残り数が減る過程では、まず周期が短くなり、次に伸びていく。周期の変化は自覚できる最初のサインになる。
子ども1人なら2年計画、2人なら4年計画、3人なら6年計画で逆算する
なぜそうするか:妊娠・出産・次の妊娠までの回復を含めると、1人あたり約2年かかる。35歳までに希望する人数を産み終える計画が理想的。
◯ 検査で分かること
✕ 検査では分からないこと
タイミング療法や人工授精は、どこがうまくいっていないか分からないまま行う治療である、というのが前提になります。