AMHが低いと言われたら:自然妊娠との関係で分かっていること
検査でAMHが低いと言われると、多くの方が「妊娠しにくいということか」と受け取ります。その不安は自然なものですが、AMHと自然妊娠の関係について実際に調べられたことは、その受け取り方とかなり違います。
この記事はAMHの基本をまとめた案内役です。AFCとの食い違い、FSHが高い場合、卵子凍結の判断については、それぞれ個別の記事で扱います。
AMHは何を測っているのか
AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、卵巣の中で育ち始めた小さな卵胞から分泌されるホルモンです。血中濃度は、これから育ちうる卵胞がどのくらい残っているか、つまり卵子の「数」の目安になります。
ここが肝心なところです。AMHは卵子の数の目安であって、卵子の質を測るものではありません。 そして卵子の質を最も強く決めるのは年齢です。
AMHが低いということは、在庫が少なめだという情報であって、いま排卵している卵子の質が悪いという意味ではありません。
自然妊娠との関係を調べた研究
この点を正面から調べた研究があります(PMID: 29049585)。
対象 — 30歳から44歳、不妊の既往がなく、妊娠を試み始めて3か月以内の女性。ノースカロライナ州の地域から募集され、981名が登録、うち750名(平均33.3歳)が血液と尿を提供して解析されました。
方法 — 妊娠までの期間を追う前向きコホート研究。年齢、BMI、人種、喫煙、最近のホルモン避妊薬の使用で調整しています。
結果 — AMHが低い群(0.7 ng/mL未満、84名)と正常な群(579名)を比べると、
- 6周期後の妊娠確率: 65%(95%CI 50-75%)対 62%(95%CI 57-66%)
- 12周期後の妊娠確率: 84%(95%CI 70-91%)対 75%(95%CI 70-79%)
いずれも有意な差はありませんでした。
同じ研究では、血中FSHが高い群(10 mIU/mL超、83名)、尿中FSHが高い群、インヒビンBについても調べていますが、どれも妊娠確率との関連は見られていません。
著者らの結論はこうです。30〜44歳で不妊歴がなく、妊娠を試み始めて3か月以内の女性において、卵巣予備能の低下を示すバイオマーカーは妊孕性の低下と関連しなかった。これらの所見は、自然妊娠の見込みを評価する目的でAMHやFSHの検査を使うことを支持しない。
この研究が当てはまる人、当てはまらない人
ここは慎重に読む必要があります。
当てはまるのは、30〜44歳で、不妊の既往がなく、妊娠を試み始めて間もない方です。
書かれていないのは、
- 40歳未満だけを取り出した解析 — 行われていません。「若ければAMHが低くても大丈夫」とは、この研究からは言えません
- 不妊治療を受けている方 — 対象に含まれていません
- 30歳未満の方 — 対象外です
- 体外受精の成績 — この研究は自然妊娠を見たもので、ARTの結果ではありません
そして、年齢そのものが自然妊娠の最も強い要因であることは変わりません。 AMHが低くても年齢が若ければ相対的に有利ですし、AMHが正常でも年齢が上がれば妊娠しにくくなります。この研究はAMHの意味を限定しただけで、年齢の重みを軽くしたわけではありません。
ではAMHは何の役に立つのか
自然妊娠の見込みを占うには向きませんが、体外受精を行う場面では意味があります。
卵巣刺激にどの程度反応するかの目安になるため、刺激の薬剤量を決める判断材料として使われます。採卵できる卵子の数とも相関します。
つまりAMHは「妊娠できるかどうか」ではなく、「治療したときに卵巣がどう反応しそうか」を見る検査だと理解するのが実態に近いです。
AMHが低いと言われた方へ
数値そのものより、次のことを確認してください。
- 何のために測ったのか — 治療の計画を立てるためか、自然妊娠の見込みを知るためか。後者なら、上の研究が示すとおり向いていません
- 年齢と合わせて読む — AMH単独では判断できません
- 一度の測定で決めない — AMHは測定系による差もあり、周期によっても変動します
- 他の結果と合わせる — AFC(胞状卵胞数)と食い違うこともあります
低い数値を見て焦って治療を前倒しする判断が、必ずしも良い結果につながるとは限りません。かといって「気にしなくていい」でもありません。ご自身がどの状況に当てはまるのかを、検査結果を持っている主治医と確認するのがいちばん確かです。
もっと詳しく
- AMHとAFCの結果が食い違うとき → AMHとAFCが一致しないとき、どちらを信じるか
- FSHが高いと言われた場合 → FSH高値とAMH:妊娠の可能性をどう考えるか
- 卵子凍結を考えている場合 → AMHと卵子凍結の現実
- AMHが高くPCOSを指摘された場合 → PCOSの診断とAMH検査
よくある質問 (FAQ)
Q1: AMHが低いと妊娠できないのですか?
A1: そうではありません。30〜44歳で不妊歴のない750名を追跡した研究では、AMHが低い群と正常な群で6周期後・12周期後の妊娠確率に差がありませんでした。AMHは卵子の数の目安であって、質や妊娠のしやすさを直接示すものではありません。
Q2: AMHが低いので、すぐ体外受精に進んだ方がよいですか?
A2: AMH単独では決められません。年齢、これまでの経過、他の検査結果を合わせて判断することになります。数値に驚いて急ぐより、主治医と全体像を確認してください。
Q3: AMHは上げられますか?
A3: AMHを上げるとされるサプリメントや治療に、確かめられた根拠はありません。そもそもAMHは残っている卵胞の数を反映する指標なので、数値を動かすこと自体が目的になりません。
Q4: AMHが正常なら安心ですか?
A4: AMHが正常でも、年齢が上がれば妊娠しにくくなります。AMHは年齢による卵子の質の変化を捉えるものではないためです。
Q5: 測り直した方がよいですか?
A5: AMHは測定機器や試薬によって値に差が出ることが知られており、周期による変動もあります。ひとつの数値で判断を固めず、主治医に測定方法を含めて確認してください。
まとめ
AMHは卵子の数の目安であり、質や自然妊娠のしやすさを測るものではありません。750名を追跡した研究では、AMHが低い群と正常な群で妊娠確率に差がなく、著者らは自然妊娠の評価にAMHを使うことを支持しないと述べています。
一方で、体外受精の刺激量を決める場面では役に立つ検査です。
AMHの数値は、それだけで将来を決めるものではありません。年齢とご自身の経過と合わせて、主治医と読んでください。
参考文献
- Association Between Biomarkers of Ovarian Reserve and Infertility Among Older Women of Reproductive Age. JAMA. 2017. PMID: 29049585(30〜44歳で不妊歴のない750名を対象とした前向きコホート研究です)
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