CoQ10と卵子の質:エビデンスで分かっていること・いないこと

佐藤 琢磨

妊活中の方にとって「卵子の質」は気になるテーマで、その改善にCoQ10(コエンザイムQ10)を勧める情報を目にすることも多いと思います。ただ、実際に人で確かめられていることと、まだ確かめられていないことの境目は、あまり整理されないまま語られがちです。

この記事では、CoQ10について報告されている臨床データを、対象となった人数と研究の型を添えて並べます。結論を先に書くと、卵巣予備能が低下した女性では臨床的妊娠率の上昇を報告したメタ解析がある一方、出産率(生児獲得率)が上がることは示されていません。

コエンザイムQ10とは

CoQ10は体内で作られる補酵素で、ほぼ全ての細胞に存在します。細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリアの働きに関わり、抗酸化作用も持ちます。体内での生成量は加齢とともに減る傾向があり、食品だけで十分な量を補うのは難しいとされています。

「ミトコンドリアを活性化する」はどこまで確かめられているか

卵子は体の細胞の中でも特に多くのミトコンドリアを含み、受精や初期の胚発生には大量のエネルギーが必要です。ミトコンドリアの機能が落ちると卵子の質が下がる、という説明はここから来ています。

ただし、CoQ10がヒトの卵子のミトコンドリア機能を改善したことを直接示したデータはありません。 この機序を示したのは動物モデルの研究です。加齢したマウスにCoQ10を投与すると卵子の質と数の低下が回復したという報告があり、同じ研究では高齢のマウスとヒトの両方で、CoQを作る酵素の発現が卵子で低下していることも観察されています(PMID: 26111777)。あくまでマウスでの介入研究であり、ヒトで測られているのは妊娠率などのアウトカムだけで、機序の部分は仮説の段階です。

この区別は大切です。「ミトコンドリアを活性化するから効く」という説明は、まだ人で確かめられた筋道ではありません。

ヒトで報告されていること

卵巣予備能が低下した女性(DOR)

卵巣予備能が低下した女性がIVF/ICSIを受ける際にCoQ10を前投与した6件のランダム化比較試験、計1,529名を統合した2024年のメタ解析では、次のように報告されています(PMID: 39129455)。

  • 臨床的妊娠率の上昇(OR 1.84、95%CI 1.33-2.53)
  • 採卵数の増加(平均差 1.30、95%CI 1.21-1.40)
  • 周期キャンセル率の低下(OR 0.60、95%CI 0.44-0.83)
  • 流産率の低下(OR 0.38、95%CI 0.15-0.98)

ただし著者ら自身が、組み入れた試験の規模が小さく、方法の記述が十分でないことを限界として挙げ、厳密に実施された試験が今後必要だと述べています。また、このメタ解析の主要アウトカムに出産率は含まれていません。

体外受精を受ける女性全般

不妊治療でARTを受ける女性を対象とした5件のランダム化比較試験、計449名(CoQ10群215名、プラセボまたは無治療群234名)を統合した2020年のメタ解析では、臨床的妊娠率が28.8%対14.1%で、CoQ10群の方が高いと報告されています(OR 2.44、95%CI 1.30-4.59、p=0.006)。この差は、卵巣反応の低い女性とPCOSの女性を別々に解析しても残りました(PMID: 32767206)。

一方、同じ解析で出産率(生児獲得率)には差がありませんでした(OR 1.67、95%CI 0.66-4.25、p=0.28)。流産率にも差はありません(OR 0.61、95%CI 0.13-2.81)。

35歳以上を対象とした試験

35歳から43歳でIVF-ICSIを受ける方を対象に、CoQ10 600mgとプラセボを比較した二重盲検ランダム化試験があります。極体生検が胚の質と着床に与える影響への安全性の懸念から、予定していた症例数に届く前に中止されました。39名が無作為化され、27名が薬剤を投与され、24名が周期を完了しています。卵子の異数性率は46.5%対62.8%、臨床的妊娠率は33%対26.7%でしたが、いずれも有意差はなく、論文自身が差を検出するには症例数が足りなかったと明記しています(PMID: 24987272)。

高齢の女性でCoQ10が効くという話の出どころとして、この試験が引かれることがあります。しかし結果は「差が出なかった(そして差を見るには小さすぎた)」であって、有効性を示したものではありません。

分かっていないこと

  • 出産率が上がるか — 上のとおり、統合解析で有意差は出ていません。妊活で最終的に知りたいのはここなので、この点が空いていることは大きいです
  • 誰に効くのか — 臨床的妊娠率の上昇が報告されているのは、卵巣予備能が低下した集団やART全般の解析です。卵巣機能に問題のない方、自然妊娠を目指している方での効果は確かめられていません
  • 最適な量と期間 — 試験ごとにばらついており、確立された用量はありません

現時点では、すべての妊活中の方にCoQ10を勧められるだけの根拠はありません。

還元型(ユビキノール)と酸化型(ユビキノン)

CoQ10には還元型(ユビキノール)と酸化型(ユビキノン)があります。体内で働くのは還元型で、酸化型は体内で還元型に変換されて使われます。一般には還元型の方が吸収効率が良いとされますが、価格は高くなる傾向があります。

なお、上に挙げた臨床試験で使われた剤形はそれぞれ異なります。どちらの形が妊娠率の面で優れているかを比べた試験はありません。

いつから飲むか

メタ解析に組み入れられた試験では、採卵前におおむね1か月から3か月の投与が行われています。卵胞が育つには数か月かかるため、始めるのであれば採卵周期の直前ではなく、数か月前からが想定されている、という理解が妥当です。

「卵子の成熟には90日かかるので3か月前から」という説明が広く流通していますが、原始卵胞から排卵までは実際にはもっと長く、90日は一般向けに丸められた数字です。この数字自体を行動の根拠にするより、試験で使われた投与期間を目安にする方が確かです。

検討するときに大切なこと

  1. 主治医に相談する — サプリメントであっても、体質や併用している薬との関係で考慮すべき点があります。不妊治療中であれば、治療計画の中でどう位置づけるかを含めて相談してください
  2. 副作用 — 一般に安全性は高いとされますが、胃部の不快感などが報告されています。気になる症状があれば医師や薬剤師に相談してください
  3. 位置づけを見誤らない — CoQ10は妊活を支える要素の一つに過ぎません。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、禁煙と節酒といった基本的な生活習慣の方が、確かめられている範囲は広いです

一般的なプレコンセプションケアについてはこちらの記事もあわせてご覧ください。

よくある質問 (FAQ)

Q1: CoQ10を飲めば卵子の質は上がりますか?

A1: 「卵子の質が上がる」ことを直接測った試験はありません。人で測られているのは臨床的妊娠率や採卵数といったアウトカムです。卵巣予備能が低下した方では臨床的妊娠率の上昇が報告されていますが、出産率が上がることは示されていません。

Q2: 誰が飲むと意味がありますか?

A2: データがあるのは、体外受精を受ける方、とくに卵巣予備能が低下した方です。卵巣機能に問題のない方や自然妊娠を目指している方での効果は確かめられていません。ご自身がどの集団に当たるかは、検査結果を持っている主治医と確認してください。

Q3: いつから飲み始めればよいですか?

A3: 試験では採卵前おおむね1か月から3か月の投与が行われています。始めるなら採卵周期の直前ではなく、数か月前からが想定されています。

Q4: 還元型と酸化型はどちらを選ぶべきですか?

A4: 体内で働くのは還元型で、吸収効率は還元型の方が良いとされます。ただし、どちらが妊娠率の面で優れているかを比べた試験はないため、現時点では価格や続けやすさも含めて主治医と相談して決めることになります。

Q5: CoQ10以外に卵子の質をサポートする方法はありますか?

A5: 卵子の質を直接改善する特効薬はありません。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、禁煙・節酒、ストレスの管理といった生活習慣が基本になります。葉酸など妊娠前から勧められている栄養素もあります。

まとめ

CoQ10について人で報告されているのは、卵巣予備能が低下した女性や体外受精を受ける女性での臨床的妊娠率の上昇です。一方で、出産率が上がることは示されておらず、ミトコンドリア機能の改善という説明も動物モデルの段階にとどまります。

「効かない」でも「効く」でもなく、確かめられている範囲がここまで、というのが現在地です。検討するときは、ご自身が試験の対象となった集団に当たるのかを含めて、主治医と相談してください。

参考文献

  • Clinical evidence of coenzyme Q10 pretreatment for women with diminished ovarian reserve undergoing IVF/ICSI: a systematic review and meta-analysis. Ann Med. 2024. PMID: 39129455
  • Does coenzyme Q10 supplementation improve fertility outcomes in women undergoing assisted reproductive technology procedures? A systematic review and meta-analysis of randomized-controlled trials. J Assist Reprod Genet. 2020. PMID: 32767206
  • Coenzyme Q10 Supplementation and Oocyte Aneuploidy in Women Undergoing IVF-ICSI Treatment. Clin Med Insights Reprod Health. 2014. PMID: 24987272
  • Coenzyme Q10 restores oocyte mitochondrial function and fertility during reproductive aging. Aging Cell. 2015. PMID: 26111777(マウスでの研究)

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この記事を書いた人

佐藤 琢磨

生殖医療専門医

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