PFASと妊活:血中濃度と妊娠までの期間について分かっていること

佐藤 琢磨

PFAS(ピーファス)は「永遠の化学物質」と呼ばれ、分解されにくく体内に蓄積することから関心を集めています。妊活との関係についても報告が増えていますが、結果は一方向に揃っていません。

この記事では、報告されている内容を出典ごとに分けて示します。プラスチック製品全般の曝露を減らす工夫については環境ホルモン・マイクロプラスチックと妊活にまとめてあるので、ここではPFASの血中濃度と妊娠までの期間に絞ります。

PFASとは

有機フッ素化合物の総称で、数千種類あります。水や油をはじく性質から、焦げ付き防止加工のフライパン、防水スプレー、撥水加工の衣類、食品包装紙などに使われてきました。

化学的に安定で分解されにくいため、環境中にも体内にも長く残ります。これが「永遠の化学物質」と呼ばれる理由です。主な曝露経路は飲料水と食品とされています。

系統的レビューが言っていること

2017年から2022年に発表された30の研究、計27,901名を対象とした2024年の系統的レビューがあります(PMID: 39767456)。一般の人々が日常的に曝露している水準での影響を整理したもので、結論は次のとおりです。

  • 一般集団の背景レベルのPFASでは、妊孕性への影響は認められなかった
  • PFOSが高いと早産のオッズが弱く〜中等度に上昇、PFOAが高いと流産で同様
  • 早発閉経・早発卵巣不全との関連を示唆する報告はあるが、限られている
  • 月経周期の特徴については一貫しない
  • PCOS関連・子宮内膜症関連の不妊では、中等度のオッズ上昇
  • 精子の運動率とDNAの健全性は、複数のPFASで中等度に障害
  • 胎児の発育に関する所見は一貫しない

つまり「妊娠しやすさ全体としては影響が見えないが、特定の条件や精子の項目では関連が見える」という、まだらな結果です。

なお、このレビューはメタ解析ではなく質的な統合で、効果量は統合されていません。資金提供に水道事業体が含まれている点も、読むうえで知っておいてよい情報です。

個別のコホートでは別の結果も出ています

シンガポールの妊娠前コホートに含まれる382名を対象とした2023年の研究では、上とは違う方向の結果が報告されています(PMID: 36801327)。

PFASの血中濃度が四分位で1段階上がるごとに、妊孕力(妊娠のしやすさ)が5〜10%低下したというものです。

  • PFDA: 妊孕力比 0.90(95%CI 0.82-0.98)— 有意
  • PFOS: 0.88(95%CI 0.79-0.99)— 有意
  • PFOA: 0.95(95%CI 0.86-1.06)— 有意ではない
  • PFHpA: 0.92(95%CI 0.84-1.00)— 境界
  • PFHxS・PFNA・PFHpS: 関連なし

臨床妊娠や生児獲得のオッズも低下する傾向でしたが、こちらは信頼区間に1を含むものが多く、確かなことは言えません。

食い違いをどう読むか

系統的レビューは「影響なし」、個別のコホートは「5〜10%低下」。逆の結論に見えますが、見ているものが違います。

  • 対象集団が違う — レビューは複数国の一般集団、コホートは単一集団
  • 曝露の水準が違う — 地域の水道水の状況によってPFASの血中濃度は大きく変わります
  • 測っているものが違う — 「妊娠したかどうか」と「妊娠までにかかった期間」は別の指標です
  • 物質ごとに結果が違う — PFASは総称で、PFOS・PFOA・PFDAなどで結果が揃っていません

どちらも観察研究であり、PFASの濃度が下がれば妊娠しやすくなることを示した研究はありません。

現時点で言えるのは、「関連を示す報告はあるが、日常的な曝露レベルで妊娠しにくくなると断定できる段階ではない」というところまでです。

飲料水と、できること

曝露経路として比重が大きいとされるのは飲料水です。お住まいの地域の水道水のPFAS濃度は、自治体が公表している水質検査の結果で確認できることがあります。基準値や規制は各国で見直しが進んでいる最中です。

そのうえで、日常でできることは限られています。

  • 焦げ付き防止加工の調理器具は、傷んだら買い替える。 表面が削れた状態での使用を避けます
  • 撥水スプレーは換気のよい場所で、使いすぎない
  • 食品包装紙に入ったまま加熱しない

いずれも妊娠率を上げることが示された方法ではありません。 曝露を減らすための、費用のかからない工夫にすぎません。過度に気にする必要はありませんし、これまでの生活を責める理由にもなりません。

よくある質問 (FAQ)

Q1: 血中のPFAS濃度は測れますか?

A1: 研究では測定されていますが、一般的な健康診断の項目ではなく、測っても結果に応じた確立した対処法はありません。測ることで不安だけが増えることもあります。

Q2: PFASの影響は男女で違いますか?

A2: 報告の内容が異なります。系統的レビューでは、精子の運動率とDNAの健全性について複数のPFASで中等度の障害が報告されている一方、女性の妊孕性全体としては背景レベルでの影響が認められていません。

Q3: 浄水器を使えば減らせますか?

A3: PFASに対応した浄水方式もありますが、製品によって性能は大きく異なります。そして繰り返しになりますが、濃度を下げれば妊娠しやすくなることを示した研究はありません。 水質が気になる場合の選択肢のひとつ、という位置づけです。

まとめ

PFASと妊孕性の関係について、30研究・27,901名の系統的レビューは「一般的な曝露レベルでは妊孕性への影響を認めない」と結論しています。 一方で、382名のコホートでは妊孕力の5〜10%低下が報告されており、結果は揃っていません。

特定の条件(PCOS関連・子宮内膜症関連の不妊)や精子の項目では関連が報告されていますが、いずれも観察研究で、濃度を下げれば妊娠しやすくなることは示されていません。

曝露を減らす工夫には意味がありますが、それは妊活の手段としてではなく、長期的な健康のための一般的な配慮として考えるのが実態に合っています。

参考文献

  • Environmental Exposure to Per- and Polyfluorylalkyl Substances (PFASs) and Reproductive Outcomes in the General Population: A Systematic Review of Epidemiological Studies. Int J Environ Res Public Health. 2024. PMID: 39767456(30研究・27,901名の質的統合です。効果量は統合されていません)
  • Exposure to perfluoroalkyl substances and women's fertility outcomes in a Singaporean population-based preconception cohort. Sci Total Environ. 2023. PMID: 36801327(382名の観察研究です。因果は示していません)

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この記事を書いた人

佐藤 琢磨

生殖医療専門医

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