ビタミンDと妊娠しやすさ:関連はあるが「飲めば上がる」ではない
ビタミンDは骨の健康に欠かせない栄養素ですが、近年は生殖機能との関連も注目されています。「妊活のためにビタミンDを飲んだ方がいいのか」という疑問を持つ方は多いと思います。
この記事の結論を先に書きます。ビタミンDの血中濃度が充分な人ほど体外受精の成績が良い、という観察は複数あります。しかし、それは「サプリメントを飲めば成績が上がる」という意味ではありません。 この違いが、この話題を分かりにくくしている一番の原因です。
なぜビタミンDと妊娠が結びつけられるのか
ビタミンDは体内で活性型に変換され、ホルモンに似た働きをします。ビタミンD受容体は腎臓や消化管だけでなく、卵巣や子宮にも見つかっています。ここから、生殖ホルモンの産生や卵胞の発育、子宮内膜の状態に関わっているのではないか、という仮説が立てられてきました。
加えて、不妊の女性ではビタミンD欠乏の割合が高いという観察も報告されており、関心を集める要因になっています。
観察されていること
体外受精の成績との関連
体外受精を受けた女性を対象としたコホート研究15件、計3,711名を統合した解析があります。血中濃度で「充足(30 ng/mL以上)」「不足(21-29 ng/mL)」「欠乏(20 ng/mL未満)」の3群に分けて比較したところ、充足群は欠乏群に比べて次の成績が高いと報告されました(PMID: 32791871)。
- 出産率(オッズ比 1.74、95%CI 1.31-2.31)
- 生化学的妊娠率(オッズ比 1.43、95%CI 1.06-1.95)
- 継続妊娠率(オッズ比 1.29、95%CI 1.02-1.64)
着床率と流産率には差がありませんでした。また、提供卵を使った周期だけを取り出すと、有意な差は見られなくなりました。
別のコホート研究の統合(臨床妊娠については9件)でも、欠乏群の出産率が低いと報告されています(リスク比 0.74、95%CI 0.58-0.90)。一方、臨床妊娠率には有意差がありませんでした(PMID: 29426322)。
ここが肝心です
上の2つは、いずれもコホート研究、つまり「観察」の統合です。サプリメントを投与して比べた試験ではありません。
ビタミンDの血中濃度は、屋外で過ごす時間、体格、食事、季節、住んでいる地域、持病など、多くのものを反映します。濃度が低い人と高い人では、他にも違うことがたくさんあります。ですから「濃度が高い人の成績が良い」という観察から、「濃度を上げれば成績が上がる」とは言えません。提供卵の周期で差が消えたことも、卵の側の要因だけでは説明がつかないことを示しています。
先ほどのメタ解析の著者ら自身が、ビタミンD以外の人口統計的・地理的・臨床的な要因を確かめないうちは、良い成績がビタミンDの高さによるものだと結論づけられない、と述べています。
サプリメントを投与して妊娠成績を比べた試験の結果は一貫しておらず、妊娠成績を目的にビタミンDを勧められるだけの根拠は、現時点ではありません。
男性側で報告されていること
血中ビタミンD濃度と精液所見の関連を調べた観察研究18件を統合した解析では、妊孕性のある男性の方が血中25(OH)D3濃度が高く、濃度と精子運動率・前進運動率との間に関連が報告されています(PMID: 31561004)。
ただしこれも観察研究の統合です。著者ら自身が、組み入れた研究間のばらつきが大きく、解釈には注意が必要だと明記しています。
不足しやすいのはどんなときか
ビタミンDは日光を浴びることで皮膚で作られ、食事からも摂れます。日中に屋外で過ごす時間が少ない生活、日焼け対策を徹底している場合、魚をあまり食べない食生活では不足しやすくなります。冬季や高緯度の地域では、日光による生成量そのものが減ります。
不足が気になる場合は、推測ではなく血中25(OH)D濃度を測るのが確実です。
補うときの注意
- 食事から: 鮭やマグロなどの魚類、きのこ類に多く含まれます
- 日光から: 季節や地域によりますが、日中に短時間、腕や脚に日が当たる程度で構いません。日焼けするほど浴びる必要はありません
- サプリメントから: 補う場合、自己判断で高用量を続けないでください。 ビタミンDは脂溶性で体内に蓄積し、過剰になると高カルシウム血症(吐き気、多尿、脱力、腎機能の低下)を起こすことがあります。不足が疑われるときは血中濃度を測ってから、医師と用量を決めてください
よくある質問 (FAQ)
Q1: 妊活中、ビタミンDは必ず摂るべきですか?
A1: 妊娠成績を上げる目的で勧められるだけの根拠はありません。ただし、ビタミンDが全身の健康、とくに骨の健康に必要な栄養素であることは別の話です。不足が気になるなら、医療機関で血中濃度を測って判断してください。
Q2: どのくらいの量を摂ればいいですか?
A2: 一般的な健康維持のための目安量と上限量は定められていますが、妊活における最適な用量は分かっていません。血中濃度を測ったうえで、医師や薬剤師と決めてください。脂溶性で蓄積するため、自己判断の高用量は避けてください。
Q3: 「ビタミンDが足りている人は妊娠しやすい」と聞きましたが?
A3: その観察自体は複数の研究で報告されています。ただし、それは関連であって因果ではありません。濃度が低い人は他の生活条件も違うことが多く、濃度を上げれば成績が上がるかどうかは、別に確かめる必要があります。その確認はまだ済んでいません。
Q4: 日光浴だけで足りますか?
A4: 季節、地域、外出時間、肌の色によって生成量が変わります。冬季や日中の外出が少ない方は不足しがちです。気になる場合は測ってみてください。
まとめ
ビタミンDと妊娠しやすさの間には、関連を示す観察の積み重ねがあります。 体外受精を受けた3,711名のコホート研究の統合では、充足群の出産率が高いと報告されました。
一方で、サプリメントを飲めば成績が上がることは示されていません。 関連と因果は別のものです。
ビタミンDは健康維持に必要な栄養素ですから、不足しているなら補う意味はあります。ただしそれは「妊娠しやすくなるから」ではなく「不足しているから」です。まずは測ってみることをお勧めします。
参考文献
- Women's vitamin D levels and IVF results: a systematic review of the literature and meta-analysis, considering three categories of vitamin status (replete, insufficient and deficient). Hum Fertil (Camb). 2022. PMID: 32791871(コホート研究15件の統合。介入試験ではありません)
- Whether vitamin D was associated with clinical outcome after IVF/ICSI: a systematic review and meta-analysis. Reprod Biol Endocrinol. 2018. PMID: 29426322(コホート研究の統合)
- The association between serum vitamin D, fertility and semen quality: A systematic review and meta-analysis. Int J Surg. 2019. PMID: 31561004(観察研究18件の統合)
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